アンドロイドの彼女の歌声に,みえる景色。時空の水が,濁流として源泉へと流れ込む。それはやっぱり,異質な世界。彼女の頬は手元にあるけど,声はまだ,遠く無窮のさなか。
NTT社は,楽譜と歌詞を与えることで,パソコンに自然な声で歌わせることが可能になる「HORN法」を開発したと発表した。HORN法は,あらかじめサンプリングした声を元に,純音を重ね合わせて歌声を作り,ノイズを加えることで人間の歌声に近づけている。
人工物の声というのは,いまだにはっきりと,肉声と区別することができる(たとえばキャッシュディスペンサーの声とか)。また肉声をサンプリングし,加工した声も(たとえば電話の時刻案内なども)違和感を感じる。それらは,音質であったり,抑揚であったり,とにかくなにかが人間の肉声とは違う。そう考えると人間の声とは不思議なものだ,と思う。人工音声と肉声の違いをもっとも感じるのは,歪み,があるかないか,だ。肉声は,どんなに澄んだ声とか,まっすぐな声と云っても,多くの歪みがある。
で,意図的に歪みを作ることを現在のコンピューターはまだ苦手だったりする。HORN法がどんな声を作りだすのか聞いたことがないのでわからないが,鍵はノイズの加え方,だろうけど…。アンドロイドが歌う歌に,心動かされるときも来るかもしれない。だが,人間は感情の抑揚によって声に歪みを生む。逆もまた真,歪みのある存在だからこそ,感情がある。雑音を加えることでは,感情は生まれない。まだ当分,アンドロイドは人間の声を手に入れることはできない。
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